ライフライン(水道及び電気)供給停止の自力救済の正当性

株式会社 ハウスバンクWATARI

2013年04月09日 11:19

■占有権の債務不履行と自力救済

 自力救済禁止とは、民事法の概念で、何らかの権利を侵害された者が、司法手続によらず実力をもって権利回復をはたすことをいう。

 例えば、自転車が盗まれて犯人と自転車の所在が分かっているとき、この自転車を奪い返す行為は自力救済にあたり罰せられる。こうした自力救済を容認すると、力が正義ということになり、実力行使を請け負う私的機関がはびこって社会秩序の維持が難しくなるためである。近代化にともない、権利の有無についての判断や執行は裁判所によってなされるべきとされ、私人の介入を排した。(Wikipedia)

 占有権の意義。占有を法律上正当づける権利たる所有権・地上権・質権等の権利を本権というのに対し、占有権は物に対する事実上の支配という状態そのものに法的保護を与える権利である。占有権の意義は、近代社会においては自力救済が原則として禁止されるのに対応し、まず事実上の支配状態(占有)に法的保護を与えることで社会秩序を維持するとともに取引の安全を図ること、又、権利の外観を保護することで真の権利者について本権存在の証明の負担から解放する点にある。

 占有権は一応の事実状態を保護する権利として本権(占有を正当化する権利)とは別の次元において認められる権利であり、他の物権とは異なり占有権には排他性や優先的効力はない。ある物が窃取あるいは詐取された場合、窃取・詐取した者は本権がないが占有権を有し、窃取・詐取された者は本権を有するにもかかわらず占有権がない状態に置かれることになる。(Wikipedia)

 このことは債務不履行に対して実力行使した場合には自力救済禁止を適用されることになる。家を貸したら賃借人が占有していることになる。法律上、物を現実に支配している人をとりあえず保護するのが占有権という権利で占有者を保護している。家賃を支払わないものに対して賃貸人が勝手に鍵を開けて家財道具を出してもいいか(自力救済禁止)どうかであるが。

 賃借人は家賃を支払っているが賃貸人は家賃を受け取っていないと思っても忘れている場合もあり得ることから、家賃を支払っていないかいるかを裁判で確定してもらい、未払いが確定した場合には賃借人は明け渡さなければならないことになる。

 しからば、水道・電気等ライフラインの料金不払いに対抗した供給停止は、自力救済禁止になるのであろうか。水や電気も物であると認められていることから、水道・電気使用料金は占有が利用者に移転してから料金が支払われないと債務不履行になる。長期の水道・電気料金が未払いの債務不履行者に対して供給を継続することは、水道・電気の占有を移転することになり、更に債務がかさむことで商取引の契約違反にあたり、債務不履行を増やさない為にも、物として考えられる水道電気の占有移転を阻止するのは当り前で正当性があると考える。占有が移転したものの債務不履行に対して実力行使して占有を奪い返した場合には自力救済にあたり禁止されることになる。

 以上のことから、行政や事業者が行う水道・電気使用料の債務不履行者に対する供給停止は、自力救済には当たらないことになる。まして、共同住宅の水道の場合はその所有者が一括して水道供給業者に支払いした上で、各入居者から料金を回収していることから、水道料金不払い債務不履行者に対する供給停止を行使することは占有移転を阻止することとして正当な行為であり、何ら自力救済には当たらないことになると考える。

 最高裁は、「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるにすぎない」 と判示した(最判昭和40年1月27日民集19巻 9号2101頁、判時436-37)。
緊急やむ終えない特別の事情がある場合には自力救済もありえるとの判示もある。

 自力救済について、判例や通説、学説の理論構成など、更なる見解をお聞かせいただければ幸いです。


(株)ハウスバンクWATARI  渡慶次 明